ムースとコンポートが共に盛られた皿が運ばれてきた。は洗練された動作でムースをすくい取り、口元 へ運ぶ。彼女の食事の仕方は実に上品でいっそ胸がすく思いがする。食器を使う手は滑らかに動き、不快に 響く音を一切生まない。食べる作業をここまで美しく昇華させてしまう人物にはしょっちゅうお目にかかれるも のではない、美食国フランス広しといえ。つい見入ってしまうのだ。フランスはこうして同じ卓についているだけで 満足できた。ふさわしくだけ開いた口に匙を入れる、は同じ口で中東部訛りを矯正された標準語を話した。

「食べないのかい、我が国。飲んでばかりじゃないか。」

 目の前にを置いておくと酒ばかりが進む。フランスはデザートには全く手をつけていなかった。食事中はめったに口 をきかないもそれを見かね呆れて声にした。声さえも酔いに心地よくフランスは頬をゆるめて返す。

「いいワインだろ。…それとその呼び方、外ではどうかな?」
「どう呼んだところで同じだと思うけどね。ニュアンスは、私のかわいいうさぎちゃん、と同じだ。」
「そういうつもりだったの? まあいいや。」

 彼女がどういう意味合いでうさぎちゃんと口にしたのかは不明だがしゃべらせてもなかなか面白い。フランス は女給仕を呼び寄せる。上目遣いに愛想よく笑みながら酒を追加注文した。
 澄んだ高音が下方から聞こえた。驚いてフランスが見やるとと目が合った。がにらみの利いた顔で一言いった。

「失礼。」

 先程まで手にしていた匙がない。

「我が国、本当はあなたに投げつけたいところだったけど。そろそろ、誠意を見せてもらえないか。我が国には 女が六千人いるが、私の男は一人だけなんだよ。」

 フランスは息を吐いた。それには笑いが混じってしまったかもしれない。目に見えて彼女の瞳が冷めてしまったことでそれを 後悔した。生じたほころびを後悔が取り消してしまったがフランスはめげずにつなげる。

は話すことがおおざっぱ過ぎるよ。」
「頭がそう良くないからね。」
「いや、情熱的で聡い。そういうところが俺は好きだよ。ほらすねないで。」
「なんか馬鹿らしくなってきた。私だって嫉妬ぐらいするんだ、心得ておいてくれ我が国。」

 …ああ、手放せなくなりそう。これから彼女の愛し方をてさぐりで探していこう。崩れた雰囲気も気にせずグラスを上げ食事に 戻ったを見てフランスは言葉の余韻を楽しんだ。






2008/09/20 かじゅ