秋の夜の涼しい風が、やさしく私の頬をなでる。その肌寒さに目が覚めた私は、目の前の光景に驚いた。金色の髪に、小洒落た髪止めが目に入る。少し大人っぽい香水とお酒の匂い。あ、私さっきまで皆とお酒飲んでて・・・それで眠っちゃって、それから?まだ目覚めたっばかりのボーっとしながらも働き出した頭で、私は少しずつさっきまでの事を思い出そうと必死に努めた。
「お目覚めか?レディ」
「ごきげんよう、フランシス」
「・・・全く、こっちは必死でアーサーを家まで連れ帰って、その上お前を背負ってきてやってるっていうのに、何にも知らずに優雅に眠りやがって」
「ごめんね?でも、置いてってくれて良かったのに」
「そんなこと、できる訳ないでしょ」
やっぱり、あなたはそういう人だ。いつもなら、すごく嬉しくて恥ずかしくて耳障りなほど胸がドキドキするんだろうけど、いい感じに酒が入っちゃってるせいで、ちっともドキドキしない。・・・っていうのも、嘘になるかもしれないけど、そう言っとかないと何だか頭の中をきちんと整理しきれない気がしたから、そういうことにしておく。うん、私はドキドキなんてしてませんよー!ちっとも!
「フランシス、もういいから降ろしてくれる?」
「駄目だ、お前絶対ふらつくもん」
「大丈夫だって!」
「駄目だって言ってるだろ」
「だ、だって私重いし!」
「どこが?お前、ちゃんと食わせてもらってんのかー?」
「食べてますとも、エリザベータちゃんのおいしいご飯!ほ、本当に大丈夫だから!」
「はいはい、そうですか。残念でした」
「・・・降ろしてよー」
「大体、俺が酒で酔ってる女の子を一人で帰らせる訳ないだろ?」
「私のこと、レディだなんて思ってないくせに」
「レディだろ?」
「女性って意味でだよ」
「まだ、お前はお子ちゃまだもんなー」
・・・悔しくなんか、ないです!ないったら、本当に!でも、目から熱いもの溢れてきそう。お酒のせいで、全部零れちゃいそうになる。あーあ、もう知らない。だって悪いのは、そんなこと言うフランシスと、ここまで私を酔わせたイヴァンのせいだもん!(ウォッカは、もう飲まないぞ!絶対!)
「でもな、」
「・・・何」
「俺は、実はずっとにお子ちゃまで居てほしいんだよな」
「どういう意味」
「お前が大人になったら、さ」
「うん」
「・・・お前酔ってるよな?」
「何でそんなこと確認するの?」
「うーん、いや。やっぱり、聞かなかったことにしてくれ」
「ちょっと、そこまで言ったんだったら・・・!」
「今日一日で忘れるってんなら、教えてやってもいーぞ」
「うん、忘れる!」
「・・・自信ありげだな、絶対忘れるんだぞ?」
「分かって、るって」
「お前、眠いんだろ?別に、寝てもいいぞ」
「・・・・・・」
「本当に寝やがったよ」
「まだ、寝てないよー」
「もう寝そうじゃねーか」
「・・・ねえ、フランシス」
「何でしょう、愛おしきレディ」
「Je t'aime」
「・・・俺のこと言ってるの?」
「ここには貴方しかいないでしょ」
「愛してる、じゃないんだな」
「愛してるって私に言ってほしい訳じゃないくせに」
「、」
「おやすみ」
「おい、こんなタイミングで寝るなよ・・・!」
「・・・・・・」
「・・・ちゃんと聞いとけよ、一度しか言ってやんないから」
「Je n'aime que toi.」
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