少しずつ吐息が白くなり始める時期だった。現に、ベランダに出ているの呼吸のリズムは、室内のフランスにも把握できる。紺碧の空に規則正しく現れては溶けてゆく乳白色。フランスは小皿に口を寄せてコンソメの味を確かめ、再び鍋に蓋をして火を落とした。

、そんなとこで何してんの。風邪引くぞー」

キッチンを出てガラリとベランダの引き戸を開けた。呼ばれたはくるりと振り返り、それから肩のショールを両手で掛け直して、わずかに鼻をひくつかせた。良いにおい、相好を崩して呟く。それから右手でフランスを手招き、その手で空を指差した。

「……流れ星を降らせようと思って」
「はあ? またなんでそんな突拍子もない」
「願い事があるんだ」

敬虔な面持ちで胸の前で両手の指を組み合わせる。流れ星が降るようにお願いをして、その流れ星にまたお願いをするなんて随分と回りくどいやり方だ。フランスはちらりとそう思ったが、自分の恋人が実は人並み以上にロマンチストであることは承知している。真摯な瞳でじっと夜空を見上げるの表情を見て、野暮な揚げ足取りは控えようと小さく微笑んだ。

の願い、当ててやろうか」

スリッパを履いたままベランダに出ての隣に並ぶ。ぱちりと目を瞬く彼女の耳に、フランスはずずいと顔を近づけた。仄白い吐息と共に囁かれた言葉。ぼんっ、音を立ててが耳まで赤くなった。

「……っ、自意識過剰!」
「あれ? 外れてた?」
「はっ……」

頬を赤らめたまま、消え入りそうな声で続きを紡ぐ。フランスは満面に朱を注いだ彼女を抱き寄せ声を漏らして笑った。それを聞いて「からかわないでよ」と膨らませる、その頬にキスをひとつ落とす。がぎゅっとフランスのエプロンの裾を掴んだ。

「そんな願い、流れ星に頼むまでもなくお兄さんが叶えてやるよ」

ぽんぽんと彼女の背を叩き部屋の中へと促す。は黙り込んだままダイニングのイスに腰掛けた。フランスが鍋の蓋を開けると、吐息よりも白い湯気が立ち昇った。
コンロを弱火にする彼の背後から小さくくしゃみが聞こえた。早く温かいコンソメを出してやらないと。フランスは薄く微笑み、食器棚のスープポットに手を伸ばした。


を紡ぐより儚く


(それは一瞬の願いだ。ただし、逆説的になるが、その瞬間は永遠だ)
(もっと私を愛してよ!さまへ提出。ありがとうございました)
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